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 ▼アテネオリンピック雑感;コーチの美学  流水 04/8/25(水) 23:00

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 ■題名 : アテネオリンピック雑感;コーチの美学
 ■名前 : 流水
 ■日付 : 04/8/25(水) 23:00
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   わたしが、アテネ・オリンピックで最も心引かれたのは、柔道の井上康生選手である。
柔道100kg級で金メダル確実といわれた男のまさかの敗戦は、勝負の世界の非情さをまざまざと見せてくれた。
わたしは、こういう場合のコーチの役割に非常に興味がある。

かって、エデイ・タウンゼントというボクシングの名コーチがいた。
彼は、大和魂で有名な藤猛や天才と呼ばれた大賀や井岡選手など多くの世界チャンピオンを育てた名伯楽である。
彼が、インタビューで「コーチで一番大切なものは何か」と聞かれて、【負けたときにそばにいてやれること】と答えていたのが、印象に残った。

勝ったときは、選手は幸せである。周りの人間はちやほやする。そんなときは、コーチの存在はあまり必要ない。
しかし、負けたときの選手は惨めである。いままでちやほやした人間は、潮の引くように去っていく。栄光の時を経験した人間ほど、この落差に耐えられない。
選手が本当にコーチを必要とするのは、こういう時である。

エデイ・タウンゼントは見事にその役を果たした。井岡選手の世界選手権のとき、病魔に侵された彼が、車椅子に乗って現れたのを見たとき、彼の選手に賭ける愛情の凄さを感じた。
彼がなくなったとき、彼がコーチした選手たちが人目もはばからず泣いているのを見たとき、本物のコーチの凄さを感じた。

井上康生選手、水泳の山田沙智子選手(※彼女は日本の中長距離の第一人者)などの惨めさは、周りの選手が輝やけば輝くほど、大きくなる。
このとき、この惨めさを共有してやるのが、本当のコーチであろう。

マラソンのラドクリフがリタイヤーした後のコメント、「わたしはずたずたになった」は、敗れた選手に共通する。この「ずたずた」になった心にそっと寄り添えるのが、本当のコーチであると思う。

教師も同じである。「ずたずた」になった心を抱えて生きている子供がどれくらいいることか。
彼らにそっと寄り添い、生きる力を取り戻させ、そっと背中を押してやることが、教師の役割だと思う。

本当のコーチの美学とは、選手が敗れたときにこそ輝くものであろう。

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