Page 692 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼「13人の刺客」に見る武士道 流水 04/6/12(土) 14:50 ┗Re(1):「13人の刺客」に見る武士道 石頭の息子 04/6/12(土) 18:44 ┗Re(2):「13人の刺客」に見る武士道 流水 04/6/12(土) 19:06 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 「13人の刺客」に見る武士道 ■名前 : 流水 ■日付 : 04/6/12(土) 14:50 -------------------------------------------------------------------------
BS2で、工藤栄一監督の「十三人の刺客」を見た。 1963年の作品だから、もう40年にもなる。しかし、年月を感じさせない見事な秀作である。 「13人の刺客」・・1963年 東映作品 監督 工藤栄一 主演 片岡千恵蔵 共演 内田良平 里見浩太郎 嵐寛十郎 丹波哲郎 西村晃 など 工藤栄一監督は、「光と影の魔術師」の異名をとる日本を代表する監督である。代表作に「十三人の刺客」「大殺陣」「影の軍団」などがあり、その見事な映像で多くの映画フアンを魅了した。 わたしも「十三人の刺客」を見たときの、衝撃と感動がいまだに忘れられず、彼の作品の多くを見ている。 「十三人の刺客」の粗筋は、以下の通りである。 将軍の弟、松平左兵衛督斉韶は、明石十万石の城主として養子に入った。 生来のわがままと残忍な性格なため、いたるところで問題を起こし、彼を諌める為、藩の家老が切腹した。 彼が切腹した直接の原因は、参勤交代の途中、木曾上松の陣屋で接待に出た新婚まもない女性を強姦し、妻を探しにきた夫を斬殺。嫁も自害して果てた。 当然、尾張藩から強硬な申し出が、公儀にあった。 彼の切腹は、藩主に対する抗議、そのことを知りながら縁組を勧めた公儀に対する抗議、同時に自分が責めを負って明石10万石に対する寛大な措置をお願いする、という意味も含まれていた。 老中土井大炊頭は、将軍の弟である松平左兵衛督斉韶を表向きは何も処分しなかったが、目付け島田新左衛門に、ひそかに暗殺をすることを命じた。 天下の政道をあずかる老中首座として、表立って将軍の弟を処分することも難しく、そうかといって何も処分しなければ、公儀の面目が立たない。 また、来年には松平左兵衛督斉韶を老中に昇進させる将軍の内意は、決定済みである。そうなると、天下に問題を振りまく可能性がある。 ことを公にせず、問題を解決するには、土井大炊頭には、暗殺という選択肢以外になかった。 同時に、このことは決して公にできない。秘密を背負ったまま黙って死んでくれる人間が必要になる。 土井大炊頭は、島田に全てを打ち明け、「天下のために死んでくれ」と頼んだ。 島田は、黙って引き受け、自分と行をともにする12人の仲間を集め、暗殺を決行する話である。 筋書きとしては、きわめて単純だが、この映画は日本の時代劇に革命的変革をもたらした「記念碑的労作」である。 64年に上映された「大殺陣」とあわせて、「集団時代劇」と評される彼の手法は、これまでの主役中心で、踊りの型の様式美で作られたこれまでの時代劇の殺陣の常識を完全に覆した。 「十三人の刺客」は、白黒映画である。これにも、彼の緻密な計算が隠されている。彼がこの映画のモチーフとして描きたかったのが、「武士という生き方」である。それには、陰影のくっきりとした映像が必要であると、考えたのである。 片岡千恵蔵演ずる目付島田新左衛門は、名門旗本の生まれ、学問は昌平校、剣は桃井道場で学び、いずれも俊才を謳われた。 一方、内田良平演じる明石藩重役鬼頭半兵衛は、小身旗本の生まれだが、生来の資質と負けず嫌いの性格から懸命に能力を磨き、松平左兵衛督斉韶が明石藩に養子に入るとき、幕府から命じられて御付のものとして明石藩士になった。 島田新左衛門とは、旧知の仲であり、鬼頭半兵衛にとっては彼を目標に身分制度の不合理と戦ってきたといってよい愛憎半ばする存在である。 鬼頭半兵衛は、主君松平左兵衛督に公儀から何のお咎めもないことに不審をもった。 彼は部下に「軽きお咎めならあったほうが良いのだ」といい、「この裁定は、明石藩にとって都合が良すぎる」と語る。「殿様が将軍家の弟様だからでしょう」と部下が答えると、「それでは天下の仕置きを預かる老中土井大炊頭の面目はどこで立つ」と反論し、部下にこう命ずる。「すぐ土井大炊頭の屋敷の小者に金を与えて、誰が屋敷を訪ねたかを探れ」と。 そして、訪問者の中に目付け島田新左衛門の名前を発見すると、藩主暗殺の計画を確信した。 彼は、暗殺計画を前提にして、それを守るための方策に全力を傾けた。 島田新左衛門が、松平左兵衛督を暗殺するのを参勤交代の道中と定め、その秘策を練っていたとき、鬼頭半兵衛が彼の屋敷に乗り込み、二人が対決する場面がある。 もちろん、半兵衛は新左衛門を切るつもりで乗り込んだのである。そのとき、新左衛門は少しも騒がず、「お主、俺を斬りにきたな」といい、「わたしはお主の目覚しい出世を、注目していた。このような仕儀に立ち立ったのはまことに残念。しかし、今となっては、いたし方がない。お互い、武士として潔くありたいものだ」と語りかける。 新左衛門は、芸者と生活し、遊治郎を自称し、三味線などをもてあそんでいる里見浩太郎扮する甥の新六郎を訪ねたときにも、自分の頼みを一言も口にせず、「ちょいと貸してみろ」と三味線を取り上げ、見事な撥さばきを見せた。「俺も若いころ武士が厭で厭で仕方がなく、これで身を立てようと思ったこともある。ところが、これがなかなか難しい。それなら、武士で死んだほうが楽だと考えたのさ」といって、黙って引き揚げた。 新六郎は考えたあげく、「俺も何か命がけで生きてみたくなった」と芸者のもとを去り、新左衛門の企てに参加した。 この作品の面白さは、それぞれの登場人物が、それぞれの生き方にこだわり、それぞれの武士道を貫いていることである。 特に、敵役になった内田良平扮する鬼頭半兵衛は、出色のできだった。 主君松平左兵衛督の非違を何度も何度も諌めながら、それでも明石10万石と己の人生を賭けて、あらゆる策を弄し、島田新左衛門と対決していく。 松平左兵衛督の非違を腹の底から憎みながら、彼を最後まで守っていく。この屈折した「武士道」を守る陰影の濃い武士を内田良平は見事に演じている。わたしはこの作品が、彼の代表作であると信じている。 そして、いよいよ最後の決闘場面を迎えるのだが、工藤監督はこの場面を延々30分近く描いている。 しかも、それこそ誰が主役でもなく、その場面を描いた。この作品が上映されたとき、この「決闘場面」の凄さに皆唖然とした。 主役の表情をアップで撮るこれまでの時代劇の常識を破り、俯瞰カメラ、引いてロングで取る。遠近法を駆使する。 まさに「集団時代劇」としか表現できない、リアルさと、迫力があった。 この場面以前の映像は、静かで凛としてひきしまり、鬼頭半兵衛の言葉を借りれば「この静かさが怖い。嵐の前の静かさ」を実感させるものである。 これが一転して、躍動感があり、迫力に満ち溢れる決闘場面に転換する。 この「静」と「動」が一瞬にして切り替わるのが、「武士道」だといわんばかりである。 千万言を要しても、「武士道」の真髄を、彼のように語ることは難しい。 ここに、工藤栄一監督の演出家としての非凡な才能があった。 |
流水さん、 懐かしい役者さんばかりですね、この作品は観た覚えがありません、映画好きなので観てみたい衝動にかられました、ビデオかDVDを探してみます。 多分、登場人物の其々の設定での武士道を描く事で、それを観た者に人の生き方を模索させ、教唆しているのかと想像します。楽しみが増えました。 映画は優れた文化だと思います、時代劇はとかく軽く見られるようですが、しっかりとした本と監督の意図があれば、さらに技術が伴っておれば観客に千万言の言葉以上の感動と啓示を与えてくれます。 最近は日本映画に愛想が尽きた訳ではありませんが、洋画を見ることのほうが多い、昨日はマイケル・ムーアの「THE AUFUL THRUTH II」を観てアメリカの懐の深さを感じました。 昨年春に離職してからは100インチホームシアターを作り、映画三昧の毎日です、飽きることがありません。 |
●100インチホームシアターを作り、映画三昧の毎日です、飽きることがありません。 うらやましい限りです。 わたしも、大学時代、いっぱしの映画青年を気取っていまして、よく見ました。 上の方で文化論が行われていましたが、映画も日本が誇れる文化の一つです。 この「13人の刺客」はお勧めです。ぜひ、見てください。絶対、損はしないと思います。 わたしは政治論に飽きると、映画や小説の話を書きたくなります。 政治を論じていると、政治というものが、人間を狂わせる悪魔的な力を持っていることにきずきます。 これは、政治が「権力」と密接不可分な関係にあることが原因でしょう。 権力というものは、人間を狂わせるものです。 この悪魔的な力に引き込まれた人間は、知らず知らずのうちに、自分の人間性を削り取られていきます。 政治を仕事にしていない人間が、政治にのめり込んだため起きる悲劇は、枚挙に暇がありません。 わたしは、政治を論ずるときには、時折そこを離れることにしています。 そうしないと、ものの見方のバランスを崩してしまうと思うのです。 ぜひ、これからも良い映画を見て、感想を聞かせてください。 |