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 ▼政治とメデイア;ベネズエラクーデーターの裏側  流水 04/3/3(水) 21:46

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 ■題名 : 政治とメデイア;ベネズエラクーデーターの裏側
 ■名前 : 流水
 ■日付 : 04/3/3(水) 21:46
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   NHKプライムタイムの「ベネズエラクーデターの裏側」が、BS2で再放送された。
2002年、4・12の【クーデター】の真相が、ドキュメントで描かれた貴重な作品である。この作品を撮影したのは、アイルランドの「パワー ピクチャーズ」である。

「パワー ピクチャーズ」は、2001年9月(クーデターの7ヶ月前)からチャベス大統領の取材を始めており、その取材の途中で偶然この【クーデター】に遭遇し、貴重な映像をものにした。
メデイアが批判精神を忘れ、権力と一体化し、真実を報道しなくなったとき、どのような事態が起きるかをこのドキュメンタリーは、われわれに語りかけてくれる。

何はともあれ、作品の概要を書いてみる。

ベネズエラのチャベス大統領は、軍人出身である。彼が陸軍将校であったときクーデターにかかわり、逮捕投獄されるが、貧民たちからは英雄として尊敬され、大統領の道を切り開いた。
彼は、1998・4、以下のことを民衆に約束した。
「ベネズエラは世界有数の石油輸出国であるが、それで得た富が一部の層にしか流れていない。この石油で得た富を国民に公平に【分配する】。そのため、石油公社の経営に介入する。」

1999年新たな憲法を制定、今まで基本的人権のことをあまり知らなかった国民に語りかけ、国民の権利を啓蒙した。

ベネズエラは、石油の富を独占した一部の富裕層と貧しい生活にあえぐ多くの貧民層に分かれた階級社会である。そのため、チャベス大統領は貧民層の希望の星であり、事実彼が大統領になってからは【ボリバルサークル」という政治に参加するサークルを通じて、政治に積極的に参加するようになっていた。【ボリバルサークル】を通じて、国民に憲法の勉強、基本的人権の啓蒙などを行った。一方、富裕層から見れば彼は共産主義者であり、自分たちの権益を略奪する許しがたい存在である。中でもこれまで富裕層の権益の中心である【石油公社】に介入するというチャベス大統領の政策は絶対認めることができないものだった。

ベネズエラにある民間TV局は5局。全て経営者は、富裕層である。彼らは、このTV局を通じて、猛烈な反チャベスキャンペーンを展開した。
一方、チャベス大統領側にあるのは、国営放送局のみであり、情報戦においては圧倒的不利な条件に置かれていた。

2002年4月。反チャベス派の中心人物、ペドロ・カルモナとカルロス・オルテガは、TVを通じて反チャベスのデモをよびかけた。また、軍幹部もTVに出演、チャベスの退陣を訴えた。
2002・4・12、反チャベス派のデモが開始。一方チャベス派は、大統領官邸に集結した。反チャベス派のデモの指導者は、法律違反を承知で、途中で大統領官邸に方向転換した。

大統領派と反大統領派が一触即発の状態になったとき、周囲の建物から反チャベス派やチャベス派の民衆に向かって銃弾が放たれた。ベネズエラは、一般民衆も銃を携行することが許されている。そのため、チャベス派の民衆の中から銃が放たれた方向に向かって応戦するものが現れた。
その様子を民間TV局のカメラが捉えた。それも、ある特定の角度からのみ捉えたのである。
これを【反チャベス派のデモ隊に向かってチャベス派が発砲した】という証拠として繰り返し放映したのである。
【パワー ピクチャーズ】の映像は、チャベス派の発砲が民衆を狙った発砲者がいるであろう建物に向かってなされていることを明確に示している。
しかし、民間TV局の映像は、チャベス派の民衆が発砲している場面だけを写しており、そのとき撃たれたとされる反チャベス派の民衆の姿を写していない。

そして、ついに大統領官邸は反チャベス派によって包囲される。反チャベス派の軍の幹部が官邸に乗り込み、大統領に辞任を迫った。大統領が拒否すると、彼らはタイムリミットまでに辞任しないと官邸を爆破すると脅した。
午前3時、チャベス大統領は、爆破の危険を避けるため、辞任はしないが、爆破前に官邸を出た。

その日、ペドロ・カルモナら反チャベス派は大統領官邸に集合。クーデターの首謀者たちは、民間TV局に出演、「今回のクーデターの成功はメデイアのお蔭」とTV局を賞賛した。
一方、官邸に集合した反チャベス派は、大統領にペドロ・カルモナを指名。法務大臣に任命されたダニエル・ロメロは、国民議会の解散・最高裁判所の解散・オンブズマンの解散・選挙管理委員会の解散を宣言、チャベス派の法務大臣を逮捕した。
ペドロ・カルモナは、われわれの政権は完全に合法的であり、民主的な政権であると宣言した。

一方、軍はチャベス派の民衆に発砲して弾圧に乗り出した。一人の主婦が【チャベス政権下の3年でこんな弾圧はなかった】と叫んでいたのが印象的である。

また民間TV局は、チャベス大統領の亡命説を流し、新政権を祝福した。身を隠したチャベス派の閣僚たちは、ケーブルTVを使い、チャベス大統領が外国に亡命したのでなく、軍に身柄を拘束されていることを説明した。この情報はまたたくまに全土に流れた。

2002・4・13、チャベス派の民衆たちは、軍の取締りを無視して、大統領官邸に向かって行進し始めた。官邸にいた大統領警護隊はチャベス大統領に忠誠を誓った兵士たちであったが、このとき官邸奪還のために動いた。
大統領警護隊により、奪還された官邸に続々とチャベス派の閣僚たちが帰還し、憲法にのっとり副大統領を大統領代行に任命した。

民間TV局はこの事態を報道せず、反チャベス派の正当性を報道していた。チャベス派は国営放送局を奪還し、放映を始めた。
この報道を受けて、軍内部からも続々と情報が寄せられ、ついにチャベス大統領がヘリコプターで帰ってきた。
そして、彼はこう語った。
【皆、冷静になってくれ。そして、反対者に告ぐが、反論はおおいに結構。しかし、憲法に反する行為は許さない。そして、一部の人の嘘に惑わされないこと】

このクーデターの裏側に米国がいるという噂は、当初から絶えなかった。事実、チャベス大統領が、【石油公社】に介入するという発表をしたとき、米国のパウエル国務長官は懸念を表明し、クーデターが起きた後、チャベス派の発砲が原因であると、非難していた。また、CIAの要員が、反チャベス派と接触をしていたという報道もなされていた。
ペドロ・カルモナは米国に亡命したという噂があり、反チャベス派の軍幹部の多くは米国に亡命している。

ベネズエラのクーデター事件からどのような教訓を得るかは、人それぞれであろうが、政治の世界(特に国際政治)はこの種の詐術に満ちていることを知っておくことは意味がある。

今回のクーデターの映像は、「パワー ピクチャーズ」という第三国の報道機関の映像であり、この客観的な映像のお蔭でわれわれは事の真相を知ることができた。
これこそ、メデイアの役割であろう。
これに引き換え、ベネズエラの民間TV局のあり方は、まさにその正反対であった。

この両極端のメデイアのあり方に、わたしたちの時代が抱える危うさがある。ベネズエラの場合もそうであるが、結局これを打破するのは国民の嘘を見抜く知性と行動力以外にないことを示している。

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